浦和地方裁判所 平成11年(ワ)1364号 判決 2000年5月29日
本訴原告・反訴第1364号事件(以下「反訴甲事件」という。)被告 X1
本訴原告・反訴第1365号事件(以下「反訴乙事件」という。)被告 X2
原告 X3
原告 X4
本訴原告・反訴第1366号事件(以下「反訴丙事件」という。)被告 X5
右5名訴訟代理人弁護士 大久保和明
同 伊藤明生
同 野本夏生
同 猪股正
同 髙木太郎
本訴被告・反訴甲事件、同乙事件及び反訴丙事件各原告 株式会社あさひ銀行
右代表者代表取締役 A
右訴訟代理人弁護士 木村一郎
同 藤井公明
同 山本晃夫
同 高井章吾
同 杉野翔子
同 藤林律夫
同 尾﨑達夫
同 鎌田智
同 伊藤浩一
同 金子稔
主文
一 本訴原告・反訴甲事件被告X1、本訴原告・反訴乙事件被告X2、本訴原告X3、本訴原告X4及び本訴原告X5・反訴丙事件被告の請求をいずれも棄却する。
二 反訴甲事件被告・本訴原告X1は、反訴甲事件原告・本訴被告に対し、金620万6,576円及び内金616万8,457円に対する平成10年4月22日から支払済みまで年14パーセントの割合による金員を支払え。
三 反訴乙事件被告・本訴原告X2は、反訴乙事件原告・本訴被告に対し、金1,393万1,265円及び内金1,308万0,126円に対する平成8年9月2日から支払済みまで年14パーセントの割合による金員を支払え。
四 反訴丙事件被告・本訴原告X5は、反訴丙事件原告・本訴被告に対し、金927万3,738円及び内金906万8,023円に対する平成8年8月27日から支払済みまで年14パーセントの割合による金員を支払え。
五 訴訟費用は、本訴及び反訴を通じ、本訴原告・反訴甲事件被告X1、本訴原告・反訴乙事件被告X2、本訴原告X3、本訴原告X4及び本訴原告・反訴丙事件被告X5の各負担とする。
六 この判決は、第二ないし第五項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
(本訴事件)
一 請求の趣旨
1 本訴請求
(一) 原告(反訴甲事件被告)X1(以下「原告X1」という。)の被告(反訴甲事件原告、反訴乙事件原告、反訴丙事件原告。以下「被告」という。)に対する平成2年3月13日付け金銭準消費貸借契約に基づく616万8,457円の債務は存在しないことを確認する。
(二) 原告(反訴乙事件被告)X2(以下「原告X2」という。)の被告に対する平成2年3月14日付け金銭準消費貸借契約に基づく1,308万0,126円の債務は存在しないことを確認する。
(三) 原告(反訴丙事件被告)X5(以下「原告X5」という。)の被告に対する平成2年3月13日付け金銭準消費貸借契約に基づく906万8,023円の債務は存在しないことを確認する。
(四) 被告は、原告X1に対して、1,692万1,543円及びこれに対する平成2年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(五) 被告は、原告X2に対して、1,000万9,874円及びこれに対する平成2年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(六) 被告は、原告X3(以下「原告X3」という。)に対して、2,309万円及びこれに対する平成2年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(七) 被告は、原告X4(以下「原告X4」という。)に対して、2,309万円及びこれに対する平成2年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(八) 被告は、原告X5に対して、1,402万1,977円及びこれに対する平成2年3月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求
(一) 原告X1の被告に対する平成2年3月13日付け金銭準消費貸借契約に基づく616万8,457円の債務について、原告X1の被告に対する支払義務が存在しないことを確認する。
(二) 原告X2の被告に対する平成2年3月14日付け金銭準消費貸借契約に基づく1,308万0,126円の債務について、原告X2の被告に対する支払義務が存在しないことを確認する。
(三) 原告X5の被告に対する平成2年3月13日付け金銭準消費貸借契約に基づく906万8,023円の債務について、原告X5の被告に対する支払義務が存在しないことを確認する。
3 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 本訴請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
(反訴甲ないし丙事件)
一 請求の趣旨
主文第二ないし第六項と同旨
二 趣旨に対する答弁
1 反訴甲ないし丙事件原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、反訴甲ないし丙事件原告の負担とする。
第二当事者の主張
(本訴・主位的請求について)
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告らは、いずれも、平成2年3月ころ、株式会社埼玉銀行指扇支店(以下「指扇支店」という。)と取引関係にあった者であり、そのころ、分離前の相被告株式会社プリムローズカントリー倶楽部(以下「プリムローズ」という。)と、埼玉県比企郡小川町(以下「小川町」という。)に開設予定のゴルフ場「プリムローズカントリー倶楽部」(以下「本件ゴルフ場」という。)の会員権(預託金制会員権。以下「本件会員権」という。)の入会契約(以下「本件入会契約」という。)を締結し、プリムローズに対し、2,309万円(入会金300万円。預保証金2,000万円、入会金に対する消費税9万円の合計額)をそれぞれ支払った。
(二) 株式会社埼玉銀行は、平成3年4月1日、株式会社協和銀行と合併して、株式会社協和埼玉銀行となり、平成4年9月21日、同銀行の商号は、被告名に変更された(以下「埼玉銀行」という。)。
2 被告の責任
(一) 断定的判断の提供と説明義務違反
(1) 一般的に、ゴルフ会員権の購入には、ゴルフ場の開場遅延やゴルフ場会社の倒産等の危険を伴うものであるところ、本件において、埼玉銀行は、原告らに対し、本件会員権の購入を勧めた上、プリムローズへの入会に際しては、埼玉銀行が、あらかじめ用意した入会申込書に基づいて、プリムローズカントリー倶楽部の正会員としての入会申込み等の購入手続きを行うとともに、原告らとの間で、プリムローズカントリー倶楽部ゴルフローン借入申込書及びサイギン・ローン契約書(金銭消費貸借契約証書)を取り交わしたのであって、本件会員権の販売勧誘が成功すれば、本件会員権の購入資金に関して原告らと金銭消費貸借契約を締結することによって利益を取得する立場にあったのであるから、埼玉銀行は、原告らに対し、信義則に基づき、本件会員権の購入に伴う危険性について原告らが的確な認識形成を行うのを妨げるような断定的判断の提供等をしてはならないという義務を負う。
(2) プリムローズは、埼玉県の要綱に反するにもかかわらず、本件ゴルフ場の開設工事に着工する前から、本件会員権を売り出していたが、平成2年3月ころには、本件ゴルフ場の開場予定時期がすでに平成3年末から平成4年秋ごろに遅れており、また、本来、会員からの預託金は、適切に保管されてゴルフ場の資産を形成すべき性質のものであるが、プリムローズは、昭和63年度に預託金として会員から預かった約19億円のうち約10億円を、平成元年度には、預託金として会員から預かった約90億円のうち約41億円を株式会社b商事(以下「b商事」という。)に無担保で融資した上、その株式に、b商事の負債に係る担保を設定していたのであるから、プリムローズには、ひとたびb商事が経営危機に陥れば、本件会員権の価値の暴落や、本件ゴルフ場の開場が不可能となる具体的な危険が存していた。埼玉銀行東松山支店(以下「東松山支店」という。)は、b商事の主要取引銀行であり、平成元年9月末日の時点で、b商事に約3億9,000万円を貸し付けており、プリムローズに対しても、平成4年4月ころまで約6年半、東松山支店の行員を総務部長として派遣するとともに、系列ノンバンクと合計20億円の共同融資を行い、プリムローズから、定期的に決算報告書を持参させて、会計状況を報告させ、本件会員権の販売状況の確認、価格決定等をしていたのであるから、埼玉銀行は、プリムローズがb商事に対し、危険な無担保融資を行っている等の財務状態を熟知しており、b商事が経営危機に陥れば直ちに本件ゴルフ場の開設が困難になることも予見していたのであるから、信義則上、原告らが本件会員権購入の意思決定に当たって、認識することが重要な本件会員権の内容及び本件会員権の購入に伴う危険性について十分説明すべき義務を負っていた。
(3) しかし、埼玉銀行は、次のとおり、原告らに対し、プリムローズの名門性及び本件会員権の有利な面や安全性、確実性を過度に強調して、本件会員権の購入に伴う危険性について的確な認識を形成することを妨げるような断定的判断を提供し、また、ゴルフ会員権は、ゴルフ場の倒産、開場遅延等の危険を伴うものであるにもかかわらず、原告らが本件会員権を購入するに当たって、右危険性について何ら説明しなかった。
① 原告X1について
指扇支店長B(以下「B支店長」という。)は、平成2年2月ころ、原告X1に対し、電話で、「X1さん、プリムローズの会員権買って下さい。埼玉に名門ゴルフ場ができる最後のチャンスです。うちの東松山支店が関係していますから、間違いなく良い物件です。購入資金は、全部銀行で金を出します。十年返済でいいからお願いします。」等と本件会員権の購入方の話を持ちかけ、原告X1は、その申出を断ったが、B支店長は、その後も本件会員権の購入を勧め、しつこく勧誘した。
原告X1は、埼玉銀行の支店長自らが勧誘したことから、本件ゴルフ場の建設、開設、運営は確実で安心であると信じたこと、埼玉銀行との従来のつきあいがあり断りきれなかったことから、本件会員権を購入することとした。
その後、指扇支店行員のC(以下「C」という。)又は当時の原告X1を担当する行員が、平成2年3月13日、原告X1の自宅を訪問し、原告X1は、その場において、右行員の指示に基づき、右行員が持参した本件会員権に係る入会申込書及びローン契約書に署名押印し、プリムローズとの間で、本件会員権を購入する旨の契約を締結するとともに、埼玉銀行に2,300万円の融資方を申し込み、埼玉銀行との間で、左記の約定の金銭消費貸借契約(以下「本件甲契約」という。)を締結し、プリムローズに対し、本件甲契約の借入金を原資に、入会金300万円、預託保証金2,000万円、入会金に対する消費税9万円の合計2,309万円を支払った。
返済方法 平成2年4月21日限り31万7,303円
平成2年5月から平成12年2月まで毎月21日限り28万5,167円
平成12年3月21日限り28万5,037円
毎月の元利金合計返済額は均等とする。
利息 年8.5パーセント。各返済日に後払。
利息は元金残高×年利率÷12で計算する。借入日から第1回返済日までの期間中に1か月以内の端数がある場合、その端数日数については1年を365日として日割りで計算する。
遅延損害金 年14パーセント(年365日日割計算)
期限の利益喪失条項
原告X1が返済を遅延し、被告から書面で督促しても次の返済日までに元利金(損害金を含む)を返済しなかったときは、原告X1は債務全額について期限の利益を失い、直ちに債務全額を返済する。
② 原告X2について
B支店長は、平成2年2月ころ、原告X2が経営する有限会社c商店(以下「c商店」という。)の事務所を訪れ、「このゴルフ場は、小川町で場所も近いし、経営者は衆議院議員D(以下「D」という。)の実弟であり、バックにはDがついているので、絶対に心配のないゴルフ場です。金銭面は、埼玉銀行が全部融資するので、本人は頭金も心配しなくて良い。」等と言って、しきりに本件会員権の購入を勧誘し、その後もB支店長は、何回かにわたり本件会員権の購入を勧誘した。
原告X2は、埼玉銀行とのつきあいも長いし、埼玉銀行の支店長が勧めるものであることから、全面的にB支店長の言葉を信用して、埼玉銀行の融資を受けて本件会員権を購入することを決意した。
c商店を担当していた指扇支店の営業担当行員が、平成2年3月14日、右事務所を訪れ、原告X2は、右行員の指示するままに、同行員の持参した入会申込書、ローン契約書に署名押印し、プリムローズとの間で、本件会員権を購入する契約を締結するとともに、埼玉銀行に2,300万円の融資方を申し込み、埼玉銀行との間で、左記の約定の金銭消費貸借契約(以下「本件乙契約」という。)を締結し、プリムローズに対し、本件乙契約の借入金を原資に、入会金300万円、預託金2,000万円、入会金に対する消費税9万円の合計2,309万円を支払った。
返済方法 平成2年4月1日限り21万3,305円
平成2年5月から平成12年2月まで毎月1日限り28万5,167円
平成12年3月1日限り28万5,037円
毎月の元利金合計返済額は均等とする。
利息 年8.5パーセント。各返済日に後払。
利息は元金残高×年利率÷12で計算する。借入日から第1回返済日までの期間中に1か月以内の端数がある場合、その端数日数については1年を365日として日割りで計算する。
遅延損害金 年14パーセント(年365日日割計算)
期限の利益喪失条項
原告X2が返済を遅延し、被告から書面で督促しても次の返済日までに元利金(損害金を含む)を返済しなかったときは、原告X2は債務全額について期限の利益を失い、直ちに債務全額を返済する。
③ 原告X3について
B支店長は、平成2年2月、原告X3に対し、電話で「埼玉に名門ゴルフ場ができる最後のチャンスです。うちがやっているところだから心配ないです。間違いなく良い物件ですよ。」等と、安全性、確実性及び名門性を強調して本件会員権の購入方を勧誘したが、原告X3がその申出を断ったところ、その後も2度にわたりB支店長は、電話で本件会員権の購入を勧誘した。
原告X3は、埼玉銀行の支店長自らが勧誘するものであるからゴルフ場の建設、開設及び運営についても確実で安心であると信じ、埼玉銀行との今後のつきあいもあることから、本件会員権の購入を決意した。
指扇支店の次長E(以下「E次長」という。)及びC又は同支店の他の行員は、同年3月12日、原告X3の経営する会社の事務所を訪れ、原告X3は、E次長らの指示するままに同人らが持参した入会申込書、ローン契約書に署名押印し、プリムローズとの間で、本件会員権を購入する契約の、埼玉銀行との間で、700万円を借り入れる旨の金銭消費貸借契約(年利8.5パーセント、弁済期間4年、平成2年4月から同6年3月まで毎月1日限り17万2,538円、ただし初回と終回は、金額が異なる。以下「本件丙契約」という。)の申込みをし、これに基づいて、右各契約を締結し、プリムローズに対し、本件丙契約の借入金を原資に、入会金300万円、預託金2,000万円、入会金に対する消費税9万円の合計2,309万円を支払った。
④ 原告X4について
E次長は、昭和63年9月ころ、原告X4の税理士事務所を訪れ、プリムローズについて、経営母体はDの実弟が経営する会社であること、絶対安全であること、購入資金については埼玉銀行で全部融資すること等と説明した上、その会員権を購入するように勧誘し、さらに「メンバーは800人から900人程度の予定です。埼玉に名門ゴルフ場ができるのはこれが最後です。」等と述べた。
原告X4は、埼玉銀行の支店次長が自ら本件会員権の勧誘するものであることから、ゴルフ場の建設、開設及び運営についても確実で安心であると信じ、埼玉銀行との従来のつきあいがあり、今後もいろいろ世話にならなければならない等と思い、断りきれなかったことから、本件会員権の購入を決意した。
その後、しばらく、埼玉銀行から本件会員権の購入に関する話はなかったが、平成2年3月12日、指扇支店のC又は他の行員が右事務所を訪れ、原告X4は、右行員の指示するままに同行員が持参した入会申込書、ローン契約書に署名押印し、プリムローズとの間で、本件会員権を購入する契約の、埼玉銀行との間で、2,000万円を借り入れる旨の金銭消費貸借契約(年利8.5パーセント、弁済期間10年、平成2年4月から平成12年3月まで毎月26日限り金24万7,971円、ただし初回と終回は、金額が異なる。以下「本件丁契約」という。)の申込みをし、これに基づいて、右各契約を締結し、プリムローズに対し、本件丁契約の借入金を原資に、入会金300万円、預託金2,000万円、入会金に対する消費税9万円の合計2,309万円を支払った。
⑤ 原告X5について
B支店長は、平成元年暮ころ、原告X5に対し、電話で、経営母体はDの弟が経営する安全確実な会社であること、購入資金については埼玉銀行で全額融資することなどを説明した上、本件会員権を購入するように勧誘した。
原告X5は、ゴルフ場の建設、開設及び運営についても確実であると信じ、埼玉銀行との従来のつきあいがあり、今後も付き合っていかなければならないことから、本件会員権の購入を決意した。
指扇支店のCは、平成2年3月12日、原告X5の事務所を訪れ、原告X5は、Cの指示するままに、同人が持参した入会申込書、ローン契約書に署名押印し、プリムローズとの間で、本件会員権を購入する契約を締結するとともに、埼玉銀行に1,800万円の融資方を申し込み、埼玉銀行との間で、左記の約定の金銭消費貸借契約(以下「本件戊契約」という。)を締結し、プリムローズに対し、本件戊契約の借入金を原資に入会金300万円、預託金2,000万円、入会金に対する消費税9万円の合計2,309万円を支払った。
返済方法 平成2年4月26日限り26万9,283円
平成2年5月から平成12年2月まで毎月26日限り22万3,174円
平成12年3月26日限り22万3,080円
毎月の元利金合計返済額は均等とする。
利息 年8.5パーセント。各返済日に後払。
利息は元金残高×年利率÷12で計算する。借入日から第1回返済日までの期間中に1か月以内の端数がある場合、その端数日数については1年を365日として日割りで計算する。
遅延損害金 年14パーセント(年365日日割計算)
期限の利益喪失条項
原告X5が返済を遅延し、被告から書面で督促しても次の返済日までに元利金(損害金を含む)を返済しなかったときは、原告X5は債務全額について期限の利益を失い、直ちに債務全額を返済する。
(4) 以上のとおり、原告らは、埼玉銀行から、本件会員権の危険性について適切な説明を受けることなく、本件ゴルフ場の名門性、建設、開設、運営等の安全性に関する説明を受け、また、埼玉銀行との従来のつきあいもあり断りきれなかったことから、本件会員権を購入したものである。したがって、原告らは、埼玉銀行から勧誘されたものでなく、埼玉銀行から適切な説明を受けていたのであれば、本件会員権を購入しなかったものであり、プリムローズに対し、入会金300万円、預託金2,000万円、入会金に対する消費税相当額9万円の合計2,309万円を支払うこともなかった。
(5) 埼玉銀行は、銀行ぐるみで本件会員権の勧誘行為を行うこととし、各支店に対して本件会員権の販売口数を割り当て、支店長、副支店長クラスの幹部において、本件会員権の購入の勧誘を行った。埼玉銀行の右勧誘行為等により、本件会員権を購入した埼玉銀行の顧客は、100名単位の数で存在している。
B支店長、E次長及び指扇支店の営業担当行員らも、これに従っていずれも埼玉銀行の業務として前記勧誘等を行い、原告らとの間で、プリムローズへの入会及び本件会員権の購入等の手続、本件甲ないし戊契約の締結等を締結した。その結果、原告らは、本件会員権を購入したため相当額の損害を被ったのであるから、埼玉銀行は、原告に生じた損害を賠償する責任を負うというべきであるところ、被告は、右責任を引き継いだ。
(二) 銀行法12条違反
銀行法12条は、同法10条及び同法11条が定める固有業務、附随業務及び担保附社債信託法その他の法律により営む業務以外の業務を行うことを禁じているにもかかわらず、埼玉銀行は、右規定に反し、(一)(3)のとおり、原告らに対し、本件会員権の購入を勧誘した上、本件会員権の購入手続を行うという違法な行為を行った結果、原告らは、埼玉銀行から前記借入れをした上、本件会員権を購入したため、右相当額の損害を被ったのであるから、埼玉銀行は、原告らに生じた損害の賠償責任を負うというべきであるところ、被告は、右責任を引き継いだ。
3 原告らの損害
(一) 原告X1について
原告X1は、埼玉銀行の勧誘により本件会員権を購入したため、本件会員権の購入代金2,309万円の損害を被り、被告に対し、2,309万円の損害賠償請求債権を有するところ、原告X1は、平成11年3月20日付け準備書面で、被告に対し、右債権をもって、本件甲契約に基づく被告の原告X1に対する残債権616万8,457円と対当額において相殺する意思表示をした。よって、原告X1は、被告に対し、1,692万1,543円の損害賠償請求債権を有する。
(二) 原告X2について
原告X2は、埼玉銀行の勧誘により本件会員権を購入したため、本件会員権の購入代金2,309万円の損害を被り、被告に対し、2,309万円の損害賠償請求債権を有するところ、原告X2は、本訴状をもって、被告に対し、右債権をもって、本件乙契約に基づく被告の原告X2に対する残債権1,308万0,126円と対当額において相殺する意思表示をした。よって、原告X2は、被告に対し、1,000万9,874円の損害賠償請求債権を有する。
(三) 原告X3について
原告X3は、埼玉銀行の勧誘により本件会員権を購入したため、本件会員権の購入代金2,309万円の損害を被り、被告に対し、2,309万円の損害賠償請求債権を有する。
(四) 原告X4について
原告X4は、埼玉銀行の勧誘により本件会員権を購入したため、本件会員権の購入代金2,309万円の損害を被り、被告に対し、2,309万円の損害賠償請求債権を有する。
(五) 原告X5について
原告X5は、埼玉銀行の勧誘により本件会員権を購入したため、本件会員権の購入代金2,309万円の損害を被り、被告に対し、2,309万円の損害賠償請求債権を有するところ、原告X5は、平成11年3月20日付け準備書面をもって、被告に対し、右債権をもって、本件戊契約に基づく被告の原告X5に対する残債権906万8,023円と対当額において相殺する意思表示をした。よって、原告X5は、被告に対し、1,402万1,977円の損害賠償請求債権を有する。
4 よって、原告X1は、本件甲契約に基づく残債務616万8,457円の不存在の確認並びに1,692万1,543円及びこれに対する平成2年3月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、原告X2は、本件乙契約に基づく残債務1,308万0,126円の不存在の確認並びに1,000万9,874円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、原告X3は、2,309万円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、原告X4は、2,309万円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、原告X5は、本件戊契約に基づく残債務906万8,023円の不存在の確認並びに1,402万1,977円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、被告に対してそれぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は、認める。
2(一)(1) 請求原因2(一)(1)は、争う。
(2) 請求原因2(一)(2)のうち、本件ゴルフ場の開設予定時期が、平成2年3月ころには、平成3年末から平成4年秋ころに遅れていたことは、認め、その余は、不知又は争う。
(3) 請求原因2(一)(3)のうち、柱書きは争い、①のうち、原告X1と埼玉銀行が本件甲契約を締結したことは、認め、その余は、否認し、②のうち、原告X2と埼玉銀行が本件乙契約を締結したことは、認め、その余は、否認し、③のうち、原告X3と埼玉銀行が本件丙契約を締結したことは、認め、その余は、否認し、④のうち、原告X4と埼玉銀行が本件丁契約を締結したことは、認め、その余は、否認し、⑤のうち、原告X5と埼玉銀行が本件戊契約を締結したことは、認め、その余は、否認する。
(4) 請求原因2(一)(4)は、否認ないし争う。
(5) 請求原因2(一)(5)及び(6)のうち、B支店長及びE次長が、埼玉銀行の行員であったことは、認め、その余は、否認する。
(二) 請求原因2(二)のうち、銀行法12条が、同法10条及び11条が定める固定業務、附随業務及び担保附社債信託法その他の法律により営む業務以外の業務を行うことを禁じていることは、認め、その余は、否認ないし争う。
3(一) 請求原因3(一)のうち、原告が、平成11年3月20日付け準備書面で、被告に対し、2,309万円の損害賠償請求債権が存するとして、これを本件甲契約に基づく被告の原告X1に対する残債権616万8,457円と対当額において相殺する意思表示をしたことは、認め、その余は、争う。
(二) 請求原因3(二)のうち、原告が、訴状で、被告に対し、2,309万円の損害賠償請求債権が存するとして、これを本件乙契約に基づく被告の原告X2に対する残債権1,308万0,126円と対当額において相殺する意思表示をしたことは、認め、その余は、争う。
(三) 請求原因3(三)及び(四)は、争う。
(四) 請求原因3(五)のうち、原告が、平成11年3月20日付け準備書面で、被告に対し、2,309万円の損害賠償請求債権が存するとして、これを本件戊契約に基づく被告の原告X5に対する残債権906万8,023円と対当額において相殺する意思表示をしたことは、認め、その余は、争う。
(本訴・予備的請求関係)
一 請求原因
1 割賦販売法30条の4類推適用
(一) 本件入会契約は、プリムローズの営業所以外の場所において締結されたものであり、その目的たる本件会員権は、平成8年法第44号による改正前の訪問販売等に関する法律(以下「旧訪問販売法」という。)2条3項、平成8年政令第305号による改正前の訪問販売等に関する法律施行令(以下「旧施行令」という。)2条2項、別表第2の1号により「指定権利」に当たることから、その販売は、旧訪問販売法2条1項にいう「訪問販売」に該当する。
原告らは、いずれもプリムローズからも、埼玉銀行からも、旧訪問販売法4条、5条が定めるクーリングオフ制度の存在及びその行使方法について記載された書面の交付を受けていない。
よって、本件では、旧訪問販売法6条のクーリングオフの権利行使を行い得なくなる日の起算点がないこととなり、原告らは、右条項に基づく解除権を行使することができる。
(二) 原告X1、同X2及び同X5は、平成10年6月25日、プリムローズに対し、本件入会契約を解除する旨の意思表示をした。
(三) 本件会員権の取得は、いわゆるローン提携販売であるから(割賦販売法2条2項1号)、割賦購入あっせんにおいて定められた抗弁権の接続についての明文の規定はない。しかし、ローン提携販売は、割賦購入あっせんとその信用供与の実態及び金銭の流れが実質的に同一であることより、ローン提携販売であっても、割賦販売法30条の4の類推適用が認められるべきである。
また、ゴルフ会員権は、割賦販売法2条4項が定める指定商品でにないが、埼玉銀行は、本件会員権購入の勧誘から契約関係書類の作成、売買代金の支払に至るまで販売行為の一切をプリムローズの社員を介在させずに自ら直接行っており、販売行為における埼玉銀行とプリムローズとの一体性に照らせば、原告らと埼玉銀行との間の金銭消費貸借契約と原告らとプリムローズとの間の本件入会契約という2つの法律関係を別個独立なものとして捉えることは妥当ではないから、原告X1、同X2及び同X5は、プリムローズに対する抗弁をもって埼玉銀行に対抗できる。
(四) よって、原告X1、同X2及び同X5は、それぞれプリムローズに対し対抗できる抗弁(解除)により、原告X1は、本件甲契約に基づき被告に対して負う残債務616万8,457円を、原告X2は、本件乙契約に基づき被告に対して負う残債務1,308万0,126円を、原告X5は、本件戊契約に基づき被告に対して負う残債務906万8,023円を支払う義務はない。
2 信義則
原告らと埼玉銀行との間における金銭消費貸借契約と原告らとプリムローズとの間の本件入会契約とは契約手続上の資金使途において、密接不可分な関係にあり、本件会員権の購入の勧誘から契約関係書類の作成、売買代金の支払に至るまで販売行為の一切をプリムローズの社員を介在させずに自ら直接行っており、原告X1、同X2及び同X5が旧訪問販売法4条、5条所定のクーリングオフの存在及びその行使方法について記載された書面の交付を受けていないという抗弁事由を埼玉銀行が知っていたことは明らかであるから、信義則上、原告X1、同X2及び同X5は、プリムローズに対する抗弁(前記1(二)の解除)をもって、埼玉銀行に対抗できる。
3 よって、原告X1は、本件甲契約に基づく残債務616万8,457円について、原告X2は、本件乙契約に基づく残債務1,308万0,126円について、原告X5は、本件戊契約に基づく残債務906万8,023円について、それぞれ被告に対して支払う義務が存在しないことを確認する。
二 請求原因に対する認否
1(一) 請求原因1(一)のうち、原告らが埼玉銀行からクーリングオフ制度の存在及びその行使方法を記載した書面の交付を受けていないことは、認め、原告らがプリムローズからクーリングオフ制度の存在及びその行使方法を記載した書面の交付を受けていないことは、知らず、その余は、争う。
(二) 請求原因1(二)は、不知。
(三) 請求原因1(三)及び(四)は、争う。
2 請求原因2は、争う。
(反訴甲事件)
一 請求原因
1 原告X1と被告は、平成2年3月13日、本件甲契約を締結した。
2 原告X1は、平成10年2月21日支払分まで元金について合計金1,683万1,543円を弁済したのみで、同年3月21日支払分以降、本件甲契約に基づく債務を弁済しない。
被告は、同月28日到達の内容証明郵便による通知により、原告X1に対し、同月21日弁済分以降の弁済金及びこれらに対する年14パーセントの割合による遅延損害金の支払を請求した。
しかし、原告X1は、右請求書到達日の次の約定弁済日である同年4月21日までに、弁済期到来済みの元利金及び遅延損害金を支払わなかったので、原告X1は、被告に対する本件甲契約に基づく債務について、同日、期限の利益を失った。
3 よって、被告は、原告X1に対し、本件甲契約に基づき、残元金616万8,457円、利息金3万5,287円(明細は別紙1利息・損害金明細表のとおり)、遅延損害金2,832円(明細は別紙1利息・損害金明細表のとおり)の合計金620万6,576円及び残元金616万8,457円に対する期限の利益喪失日の翌日である平成10年4月22日から支払済みまで年14パーセント(年365日日割計算)の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は、認める。
2 請求原因2は、否認する。
(反訴乙事件)
一 請求原因
1 原告X2と被告は、平成2年3月14日、本件乙契約を締結した。
2 原告X2は、平成7年7月1日支払分まで元金について合計金991万9,874円を弁済したのみで、同年8月1日支払分以降、本件乙契約に基づく債務を弁済しない。
被告は、平成8年8月15日到達の内容証明郵便による通知により、原告X2に対し、平成7年8月1日弁済分以降の弁済金及びこれらに対する年14パーセントの割合による遅延損害金の支払を請求した。
しかし、原告X2は、右請求書到達日の次の約定弁済日である平成8年9月1日までに、弁済期到来済みの元利金及び遅延損害金を支払わなかったので、原告X2は、被告に対する本件乙契約に基づく債務について、同日、期限の利益を失った。
3 よって、被告は、原告X2に対し、本件乙契約に基づき、残元金1,308万0,126円、利息金62万5,344円(明細は別紙2利息・損害金明細表のとおり)、遅延損害金22万5,795円(明細は別紙2利息・損害金明細表のとおり)の合計金1,393万1,265円及び残元金1,308万0,126円に対する期限の利益喪失日の翌日である平成8年9月2日から支払済みまで年14パーセント(年365日日割計算)の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は、認める。
2 請求原因2は、否認する。
(反訴丙事件)
一 請求原因
1 原告X5と被告は、平成2年3月13日、本件戊契約を締結した。
2 原告X5は、平成8年2月26日支払分まで元金について合計金893万1,977円を弁済したのみで、同年3月26日支払分以降、本件戊契約に基づく債務を弁済しない。
被告は、同年8月15日到達の内容証明郵便による通知により、原告X5に対し、同年3月26日弁済分以降の弁済金及びこれらに対する年14パーセントの割合による遅延損害金の支払を請求した。
しかし、原告X5は、右請求書到達日の次の約定弁済日である同年8月26日までに、弁済期到来済みの元利金及び遅延損害金を支払わなかったので、原告X5は、被告に対する本件戊契約に基づく債務について、同日、期限の利益を失った。
3 よって、被告は、原告X5に対し、本件戊契約に基づき、残元金906万8,023円、利息金17万5,552円(明細は別紙3利息・損害金明細表のとおり)、遅延損害金3万0,163円(明細は別紙3利息・損害金明細表のとおり)の合計金927万3,738円及び残元金906万8,023円に対する期限の利益喪失日の翌日である平成8年8月27日から支払済みまで年14パーセント(年365日日割計算)の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は、認める。
2 請求原因2は、否認する。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
第一本訴・主位的請求について
一 請求原因1及び原告X1、同X2、同X3、同X4及び同X5が、それぞれ埼玉銀行との間で、順に本件甲、乙、丙、丁及び戊契約を締結したことは当事者間に争いがない。
二 原告らが本件会員権を購入するに至る経緯、埼玉銀行とプリムローズとの関係等についてみるに、右当事者間に争いのない事実、<証拠省略>及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
1 本件ゴルフ場の開設計画
プリムローズは、昭和59年6月、小川町大字飯田ほかにおいてゴルフ場の開発及び経営をすることを目的として、d地建グループが資本金1,000万円の6割を、b商事(代表取締役は、F(以下「F」という。)である。)がその4割を出資して設立された。Fは、小川町を選挙区とするDの実弟であるが、b商事がDの実弟であるFの経営による会社であることは、地元では、よく知られており、Dの存在が本件ゴルフ場の開設に有利に働いていた。
本件ゴルフ場の開設に当たって、b商事は、プリムローズが設立された当初から、小川町との折衝や環境アセスメント、地権者との交渉を一手に行っていたところ、昭和61年1月には、本件ゴルフ場用地の地権者のうち、1名を除いたすべての地権者から、その所有土地等を本件ゴルフ場の用地とすることの同意が得られ、また、その間、プリムローズが、b商事の主力取引銀行である埼玉銀行と交渉したところ、埼玉銀行から本件ゴルフ場の開設資金の融資を受けることができる見通しがつき、昭和60年ころから、全国的にゴルフ場の開発がブームとなり、ゴルフ会員権の相場が高騰し始めていたので、Fは、埼玉銀行から融資を受けることができるのであれば、b商事が単独で本件ゴルフ場を開設することができると考え、b商事において、昭和61年7月、プリムローズの株式をd地建グループから買い取り、Fは、プリムローズの代表取締役に就任した。
同年10月には、埼玉県に対する本件ゴルフ場に係る造成事業申出書が受理され、プリムローズは、昭和62年9月、埼玉銀行及び埼玉銀行系のノンバンクであるeから各10億円の、小川信用金庫から20億円の融資をそれぞれ受けた。なお、小川信用金庫は、地元の金融機関であり、b商事とも長い付き合いがあることから、埼玉銀行が、小川信用金庫に対して、右20億円の協調融資を持ちかけたものであった。
プリムローズは、昭和63年10月ころ、すでに同意を得ていた地権者との間での用地買収を完了し(ただし、地権者のうち1名の同意が得られなかったため、本件ゴルフ場の開発区域は、1部変更された。)、埼玉銀行、e及び小川信用金庫は、右融資の担保として、本件ゴルフ場用地に、各債権額を極度額とする根抵当権をそれぞれ設定し、埼玉銀行は、昭和63年末から平成4年4月までの間、埼玉銀行の行員をプリムローズの総務部長として出向させていた。
プリムローズは、平成元年9月、株式会社f(以下「f社」という。)との間で、本件ゴルフ場の造成工事につき約72億円で請負契約を締結し、同年10月、埼玉県から本件ゴルフ場の開設につき開発許可を取得し、そのころ、本件ゴルフ場の造成工事に着工した。なお、その後の設計変更等により、平成2年8月に追加契約を締結し、最終的な工事代金額は、税込みで約92億5,000万円となった。
プリムローズの資本金は、昭和62年10月には、3,000万円であったが、平成元年12月には、1億円に増資され、発行済み株式総数2,000株のうち、9割をb商事が、1割をFが保有していた(甲第9、第10号証)。
2 本件ゴルフ場の概要
プリムローズが発行した本件ゴルフ場のパンフレット(乙第14号証)には、本件ゴルフ場概要については、次のとおり記載されていた。
所在地 崎玉県比企郡小川町大字飯田ほか
面積 114万5,015平方メートル
コース概要 18ホール、パー72、全長6,695ヤード
クラブハウス 鉄筋コンクリート造 3,400平方メートル
コース運営体系 会員制
着工 平成元年10月26日
開場予定 平成4年秋
コース設計施工 f工業株式会社
企画協賛 伊藤忠商事株式会社
会員数 正会員950名
事業主体 社名 プリムローズ
設立年月日 昭和59年6月18日
資本金 一億円
経営母体 社名 b商事
資本金 三億円
取引金融機関 埼玉銀行東松山支店
小川信用金庫東松山支店
武蔵野銀行東松山支店
住友銀行市ヶ谷支店
3 本件会員権の販売契約
(一) プリムローズは、昭和62年5月28日、b商事との間で、プリムローズが建設経営する本件ゴルフ場の会員の募集について、本件会員権の販売を委託する旨の総販売代理店契約を締結した(甲第20号証)。
b商事は、平成2年2月13日、g商事株式会社(以下「g商事」という。)との間で、同社に対し、b商事が経営管理するプリムローズの会員募集を委託する旨の契約を締結した(甲第21号証)。
(二) また、b商事は、埼玉銀行生活協同組合との間で、本件会員権の募集について、埼玉銀行行員(OB及び出向行員を含む。)、同行関連会社社員及び同行取引先の個人、法人から、b商事の募集するプリムローズへの入会の申込みがあった場合、埼玉銀行生活協同組合は、入会申込書及びそれに付随する書類等をとりまとめてb商事に送付し、埼玉銀行関係先から紹介された場合は、個人法人を問わず、すべて埼玉銀行生活協同組合を経由したものとして取り扱うこと、埼玉銀行生活共同組合の取扱については、b商事は、埼玉銀行生活協同組合に対し、個人正会員一口につき20万円、法人正会員1口につき40万円を紹介手数料として支払うものとする旨合意し、覚書を取り交わした(甲第22号証)。
埼玉銀行生活協同組合の業務は、あさひ銀行生活協同組合に引き継がれているが、あさひ銀行生活協同組合は、組合員の生活の改善及び文化の向上を図る事業(定款第3条3項)等を行うものである(乙第10号証)。
4 b商事に対する貸付け
Fは、昭和60年ころから、ゴルフ会員権の相場が高騰し、昭和63年から平成元年ころにかけて、さらに、右相場が上昇傾向にあり、埼玉県内のゴルフ場でも、4,000万円から5,000万円のゴルフ会員権が珍しくない状態であったため、本件ゴルフ場の正会員数を950名程度とするとしても、本件会員権の販売により、入会金と預託金で330億円は集められると予測し、他方、本件ゴルフ場の開設に当たって必要な費用は、用地買収費が諸経費込みで約60億円、造成工事費が付帯工事込みで約100億円、クラブハウス建築費が約40億円、会員権販売経費等が約30億円の合計約230億円程度があれば足りるので、約100億円の余剰資金が得られることになると計算し、b商事は、プリムローズから右余剰資金を借り入れ、海外でのゴルフ場の買収、開発やリゾートホテル、レストランの買収等の海外投資をすることとし、プリムローズは、b商事に対し、平成元年3月31日当時、本件会員権の会員預り金19億5,250万円(入会金は、預り金の約15パーセントであるから、入会金等総額は、約22億4,537万5,000円である。甲第9号証)のうち、10億0,969万4,003円を(甲第14号証)、平成2年3月31日当時、本件会員権の会員預り金90億3,450万円(入会金等総額は、約103億8,967万5,000円である。)のうち、41億3,988万3,809円を(甲第15号証)それぞれ無担保で融資しており、平成4年3月31日当時のプリムローズのb商事に対する貸付金は、約84億5,000万円に上る等プリムローズの財務状況が悪化していたため(甲第9、第10号証)、プリムローズは、第8期(平成3年4月1日から平成4年3月31日)の決算報告書(甲第17号証)において、金融機関等に対する対策として、借入金の1部を除外したり、貸付金を圧縮するなどの操作を行い、b商事に対する貸付金は46億9,480万3,681円であると虚偽の報告を行った。
5 b商事の海外投資とその失敗
b商事は、昭和63年ころから平成元年ころまでに、プリムローズに入った本件会員権の販売収入を流用し、アメリカのノースカロライナ州のパインハースト・ナショナル・ゴルフクラブ、マンハッタン・ウッズ・ゴルフクラブ、カナダのリゾートホテルやレストランの買収を行うとともに、台湾でパチンコ店を開店させた。b商事は、パインハースト・ナショナル・ゴルフクラブには、昭和63年10月に約10億7,093万円、平成2年1月ころから平成3年6月ころまで、約4億5,330万円を投融資し、平成4年9月30月当時の決算では、合計16億7,873万円を投融資していた。マンハッタン・ウッズ・ゴルフクラブには、平成元年11月ころ、ゴルフ場用地の買収契約を締結し、平成4年9月30日当時の決算では、合計51億3,980万円を投融資していた。カナダのリゾートホテルやレストランには、昭和63年8月ころ及び平成2年10月ころに買収費用を投入し、平成4年9月30日当時の決算では、投融資額は約24億4,032万円となっていた。台湾のパチンコ店については、平成元年春ころ敷地を借り、パチンコ店を建築して、平成2年5月ころ開店し、平成4年9月30日当時の投融資額は、5億4,953万円であった。
しかし、b商事の海外投資事業は、平成2年後半からのバブル経済の崩壊に加えて、事業計画や資金計画の不十分、海外投資のノウハウやスタッフ不足等の要因が重なって、平成3年ころから次々と頓挫し始め、それがb商事の資金繰りを圧迫して悪循環に陥り、平成4年4月にb商事の資金繰りが破綻したことによって、すべて失敗に終わった(甲第10号証)。
6 本件会員権の販売状況
(一) 本件会員権の販売は、平成2年半ばころまでは順調であったが、同年後半から、バブル経済が崩壊して、株価が暴落し、それに連動してゴルフ会員権の相場も急落したため、平成2年6月に募集を開始した4,500万円の正会員権は、17口しか売れなかった。プリムローズは、平成3年2月、募集価格を1口2,300万円に下げたが、ほとんど売れず、同年7月ころ、1口1,840万円に値下げし、ゴルフ会員権の販売を手広く行っていたGに依頼してHに販売を委託し、さらに、b商事の資金繰りが悪化してきたことから、同年12月及び平成4年4月には、額面1,840万円の会員権を一括売却の形式で株式会社hゴルフにダンピング販売して資金を調達するようになり、平成5年8月末以降は、本件会員権の販売は、事実上停止するに至った。
(二) 平成5年8月31日までの本件会員権の販売口数は、正会員987口、平日会員103口の合計1,090口であり、入会金23億6,220万円、預託金159億0,620万円、合計182億6,840万円の収入であった(甲第9号証)。
7 本件ゴルフ場の開設不能
プリムローズは、平成2年9月、b商事グループが東銀リースに一本化した株式投資や国内での不動産投資等による借金約60億円について、本件ゴルフ場用地に東銀リースを債権者とする極度額60億円の根抵当権を設定し、その結果、本件ゴルフ場用地に設定された根抵当権の極度額の合計額が100億円に達したため、同用地をこれ以上担保として利用することができない状態になっており、また、平成2年後半から本件会員権の販売が不振になった上、預託金の大半がb商事により、海外投資に流用されていたため、平成3年に入ってからは、出来高払いになっていたf社への工事代金の支払が滞り、f社は、同年11月、防災工事を除く造成工事を中断した。そこで、プリムローズは、平成4年2月、f社との間で、会員権販売代金を工事代金に優先的に充当する旨の協定を交わし、f社に一旦工事を再開してもらったが、同年4月、b商事の資金繰りが完全に破綻したため、同年8月、f社は、再び工事を中断し、平成5年9月には、本件ゴルフ場の開発工事計画から撤退した。
平成2年後半から本件会員権の販売が不振となったことから、Fは、Dや前記Gにプリムローズの売却先を探すよう依頼したところ、Dは、有限会社i牧場(以下「i牧場」という。)がプリムローズの債務をすべて負担した上で、30億円で購入するという話を持ちかけられ、この買収の話をFに持ちかけたことから、Fは、これに応じることとし、i牧場から、平成2年12月27日に5億5,000万円、平成3年6月26日に15億円、同年7月31日に3億円、同年8月30日に3億円、同年10月11日に6億円の合計31億円の支払を受け、プリムローズの株式をすべてi牧場に差し入れた(なお、帳簿上は、i牧場から株式会社j通商(以下「j通商」という。)が借り受け、j通商からプリムローズが借り受けた形となっている。)。Fは、i牧場がプリムローズを買い取るのであるから、すべての株式を差し入れるのは当然と思っていたが、i牧場から、本件ゴルフ場のレイアウトが良くないことを理由にプリムローズの購入を断ってきたため、プリムローズは、i牧場に対して、株式すべてを担保に、31億円の債務を負担したことになり、しかも、プリムローズがi牧場から支払われた31億円は、すべてD及びj通商に流れ、プリムローズの収入にはならなかった。
8 原告らの本件会員権の購入
(一) 埼玉銀行は、ゴルフ愛好者をもって組織し、会員相互の親睦と健康を図ることを目的とする「サイギン会」と称する団体を組織しており(甲第23号証)、昭和57年4月1日当時において、原告X1、同X2、同X4及び同X5は、サイギン会のメンバーであった(甲第24号証)。
サイギン会が行うゴルフコンペでは、指扇支店の支店長や幹部の役員が出席し、支店長は、ゴルフコンペや懇親会の前にあいさつ等を行っていた。また、サイギン会において、これまでゴルフ会員権の募集の紹介等の情報提供がされることもあった。
埼玉銀行では、取引先とのつながりや取引の振興という意味で、取引先に対し、有益な情報をサービスとして提供することが日常の業務として行われてきたところ、昭和62年6月26日から平成2年1月9日まで指扇支店の次長の役職にあったE次長は、昭和63年8月又は同年9月ころ、当時の指扇支店の支店長I(以下「I前支店長」という。)によって、当時の渉外担当者らとともに集められ、本件ゴルフ場に関する「事業計画の概要」と題する書面(甲第25号証と同様の書面)を示され、本件ゴルフ場について、経営母体、会員数、指扇支店に近いという位置関係、東松山支店とプリムローズの経営母体であるb商事との間に取引があること、b商事の経営者であるFは、Dの実弟であること等について説明を受け、サイギン会のメンバーに本件ゴルフ場に関する情報を流すように指示され、当時の渉外担当者は、それぞれが担当する顧客に対して、E次長は、右渉外担当者が特に担当していないサイギン会の会員に対して、それぞれ本件ゴルフ場に関する情報提供をすることとなった。
B支店長は、平成元年7月、I前支店長の後任として指扇支店の支店長に着任したが、その際、I前支店長から、すでに本件会員権についての情報提供は一通り終わっているので、本件ゴルフ場の会員募集の手続が始まったら、本件会員権の購入を希望する者又は本件会員権について関心を示している者に対して、改めてその旨の情報を提供するようにという引継ぎを受けたが、本件会員権の購入を希望する者又は本件会員権に関心を示している者の中に、原告X2、同X3、同X4及び同X5が含まれていた。
(二) 原告X1について
原告X1は、住所地で、有限会社kガス興業を営んでいる者である。
原告X1は、サイギン会に所属しており、ゴルフ会員権も、昭和50年代に、証券会社が経営しているゴルフ場の会員権を2件、昭和63年ころ、サイギン会のゴルフコンペの際、埼玉銀行から紹介された高山ゴルフクラブのゴルフ会員権を取得したが、原告X1は、そのうち、証券会社が経営するゴルフ場の会員権1件を本件会員権を購入する前に売却し、ゴルフ会員権の相場の高騰による利益を得ており、また、高山ゴルフクラブの会員権は、購入当時480万円であったのが、平成2年当時には、1,500万円程度の時価となっており、原告X1は、本件会員権を購入した後に高山ゴルフクラブの会員権を売却し、これによっても利益を得たことから、銀行からの紹介で購入したゴルフ会員権は高く売却することができると思っていた。
原告X1は、平成2年2月ころ、B支店長又は埼玉銀行の行員から、電話で、本件会員権の購入価格、プリムローズの代表取締役はDの実弟であること、埼玉では最後のゴルフ場となること、東松山支店と取引があること等の情報提供を受けたが、本件会員権の購入代金合計2,309万円を用意することができないと言うと、B支店長又は埼玉銀行の行員は、埼玉銀行がローンを組むので、10年間で返済すればよいと話した。そこで、原告X1は、本件ゴルフ場は、まだ完成していないが、すでに建設工事が着工しているし、銀行が購入を勧める本件会員権は、安全で、後に高く売却することもでき、また、入会金も10年の間に返済すればよいというのであれば、不利益もないと判断して、右電話でのやりとりの間に、本件会員権を購入することを決めた。
その後、原告X1は、プリムローズに対して、本件会員権を購入する旨の入会申込書を作成し(作成年月日欄は、空欄であるが、g商事の取扱い年月日は、平成2年2月28日であり、紹介者は埼玉銀行指扇支店とされている。乙第4号証)、平成2年3月9日付けのゴルフローン借入申込書を作成し(乙第17号証の1)、同月13日付けで、埼玉銀行との間で、本件甲契約を締結し(<証拠省略>)、同月15日、プリムローズに対し、2,309万円を入金した(甲第1号証の2)。なお、右手続において、プリムローズやg商事の社員が立ち会ったことはなく、すべての事務手続を埼玉銀行の行員が行った(<証拠省略>)。
(三) 原告X2について
原告X2は、住所地で、米穀商を営むc商店を経営している者であり、サイギン会の幹事をしていた。
原告X2は、昭和56年10月、いずれもすでに営業が開始されていたノーザンカントリークラブ錦ヶ原ゴルフ場、同赤城・上毛ゴルフ場及び高山ゴルフクラブの会員権を購入した。前二者は、取引先であるゴルフ場と直接契約して会員権を購入し、高山ゴルフクラブの会員権は、指扇支店から紹介されて購入したものであり、原告X2は、平成2年3月当時も、これらのゴルフ会員権を保有していた。
B支店長は、平成2年2月ころ、原告X2宅を訪れ、本件ゴルフ場のパンフレットを原告X2に渡し、本件ゴルフ場が開設されること、埼玉県にできる最後の名門ゴルフ場であること、Dの実弟が経営するゴルフ場であること、購入資金は、銀行が用意をするので頭金は不要である旨の情報提供をし、原告X2は、1度は、本件会員権を購入するつもりはないと言ったが、B支店長は、その後も、原告X2宅を訪問し、3回目の訪問の際、原告X2は、本件会員権を購入することとした。
その後、埼玉銀行の行員が、原告X2宅に、入会申込書、ゴルフローン借入申込書、ゴルフローン契約書を持参し、原告X2は、プリムローズに対して、本件会員権を購入する旨の入会申込書を作成し(作成年月日欄は、空欄であり、g商事の取扱年月日は、平成2年2月28日であり、埼玉銀行指扇支店は、紹介者とされている(乙第5号証))、同年3月9日付けのゴルフローン借入申込書を作成し(乙第18号証の1)、同月13日付けで、指扇支店との間で、本件乙契約を締結した(乙第18号証の2)。
原告X2は、入会申込書及びゴルフローン借入申込書に署名した記憶はないと供述するが、右入会申込書及びゴルフローン借入申込書に押印されている印鑑は、原告X2の実印であり、右入会申込書の所属クラブ欄には、「ノーザンカントリークラブ」と記載されていること(乙第5号証)に照らすと、原告X2の意思に基づいて作成されたことが認められる。
原告X2は、同月15日、プリムローズに対し、本件会員権の購入代金2,309万円を入金した(<証拠省略>)。
(四) 原告X3について
原告X3は、昭和56年4月、株式会社埼玉自動車教習所を設立し、現在に至るまで、代表取締役の地位にある者であり、右会社を設立した当初から、指扇支店と取引している。
原告X3は、サイギン会に所属しており、ゴルフのハンディーは、平成2年当時で9であった。
原告X3は、平成2年2月ないし同年3月ころ、大宮国際カントリークラブ、皐月鹿沼カントリークラブ、習志野カントリークラブ及び高山ゴルフクラブの会員権を有していた。大宮国際カントリークラブは、原告X3の近所の人が利用していたことから、100万円以下で購入し、皐月鹿沼カントリークラブは、自宅がある大宮市プラザの会の会員が利用していたことから、200万円から300万円で購入し、習志野カントリークラブは、仕事の関係者がよく利用していたところであったため、400万円位で購入し、高山ゴルフクラブは、昭和63年ころ、サイギン会のゴルフコンペにおいて、埼玉銀行から紹介され、購入希望者は、その日の昼までに各自申し出るよう説明を受けたため、原告X3は、高山ゴルフ場の会員権を購入することとして、右ゴルフ会員権の購入を申し出、後日480万円を現金で払って、右会員権を購入し、さらに、その後、茨城カントリークラブの会員権も取得している。
原告X3は、平成2年2月ころ、埼玉銀行から電話で又は直接に、本件会員権の購入について紹介を受けた。B支店長が、原告X3宅を訪問した際には、原告X3が資金がないということで本件会員権の購入を断ると、B支店長は、ローンで購入することができると説明し、これに対して、原告X3が、借金はしたくない旨返答すると、B支店長は、本件ゴルフ場はDの実弟であるFが経営するものであること、Dは、埼玉県でゴルフ場をいくつか手掛けていて埼玉県にも顔が利くこと、プリムローズに対して埼玉銀行が融資していること、当時の募集は、縁故募集であり、購入代金は、2,300万円であること、第1次募集になると4,000万円程度になり、第2次募集になると5,000万円程度になることを説明したが、原告X3は、資金がないとして、一旦は本件会員権の購入を断った。しかし、その後、B支店長が再度原告X3宅に電話し、本件会員権の話を持ちかけたところ、原告X3は、本件ゴルフ場が自宅から近かったことから、本件会員権の購入に反対する原告X3の妻を説得し、できるだけローンを少なくする方法で、本件会員権を購入することとした。
その後、原告X3は、プリムローズに対して、本件会員権を購入する旨の入会申込書を作成し(作成年月日欄は、空欄であり、g商事の取扱年月日は、平成2年2月28日であり、埼玉銀行指扇支店が、紹介者とされている(乙第6号証)。)、同年3月9日付けのゴルフローン借入申込書を作成し(乙第19号証の1)、同月12日付けで、埼玉銀行との間で、本件丙契約を締結し(<証拠省略>)、同月15日、プリムローズに本件会員権の購入代金2,309万円を支払った(甲第3号証の2)。右入会申込書の所属クラブ欄には「習志野カントリークラブ」と記載されている(乙第6号証)。
原告X3は、同月ころ、E次長の訪問を受けたと供述するが、前記認定のとおり、E次長は、右当時は、指扇支店に勤務していなかったから、右供述部分は採用しない。
原告X3は、その後1年ないし1年半経過してから、本件ゴルフ場の開設が遅れていたことから、本件ゴルフ場の下見を行い、また、その後、プリムローズに、埼玉銀行の行員が役員として入っているという話をうわさとして聞いた。
(五) 原告X4について
原告X4は、昭和47年に税理士資格を取得し、昭和48年から、自宅と同じ敷地で税理士事務所を開業している者であり、指扇支店ができた直後から、同支店に預金口座を設けて、税理士業務にも私的にも埼玉銀行を利用していた。原告X4は、昭和50年ころからゴルフを始め、その後、サイギン会のメンバーになった。
原告X4は、平成2年3月当時、栃木県栃木市にあるあさひヶ丘カントリークラブの会員権と、昭和63年ころ、サイギン会のコンペの席上で当時の指扇支店の支店長から紹介されてた高山ゴルフクラブの会員権を所有していた。
E次長は、昭和63年9月1日、本件ゴルフ場の「事業計画概要」及び「縁故会員募集要項」と題する書面(<証拠省略>)を持参して、原告X4の事務所を訪問し、本件ゴルフ場の名称、指扇に近い場所に存すること、会員が800名から900名であり、縁故会員は限定200名であること、入会金及び預託金が2,300万円であり、昭和64年春ころに入金予定であること、昭和63年10月に着工予定であること、プリムローズの代表取締役が政治家Dの実弟であること、いいコースであること、サイギン会で、本件会員権の購入希望者が多数出た場合は、抽選になること、本件会員権の購入資金は、埼玉銀行が融資することができること等を説明した。
原告X4は、これまで会員権を有していたゴルフ場が高速道路を利用して行かなければならない場所にあったのに対し、本件ゴルフ場は、原告X4の自宅から近く、交通の便が良かったため、埼玉県内の名門コースという点に魅力を感じ、また、埼玉銀行の支店長が勧めるものであれば、間違いなくいいコースができるであろうし、これまで有していたゴルフ会員権を譲渡し、埼玉銀行のローンを利用して本件会員権を購入し、ゴルフ会員権を一本化したいと考え、E次長から、15分から20分間、本件会員権の募集に関する話を聞いた後、本件会員権を購入したい旨をE次長に伝えた。
しかし、その後、本件会員権の購入について、具体的な話がなかったことから、原告X4は、埼玉銀行に対して、本件会員権の募集について問い合わせる等していたが、平成2年3月12日の1週間から10日前ころ、指扇支店の行員から、本件会員権の募集が開始された旨の電話連絡が入ったため、本件会員権の購入手続を進めることとし、その後、原告X4は、埼玉銀行から必要書類を持参してもらい、その後、プリムローズに対して、本件会員権を購入する旨の入会申込書を作成し(作成年月日欄は、平成2年2月まで記載されているが、日にち欄は、空欄であり、g商事の取扱年月日は、同月28日であり、埼玉銀行指扇支店が、紹介者とされている(乙第7号証)。)、同日付けのゴルフローン借入申込書を作成し(乙第20号証の1)、同年3月12日付けで、指扇支店との間で、本件丁契約を締結し(<証拠省略>)、同月15日、プリムローズに対し、2,309万円を入金した(甲第4号証の2)。右申込書の所属クラブ名の欄には、あさひヶ丘カントリークラブと高山ゴルフクラブが記載されている(甲第7号証)。なお、原告X4が本件会員権を購入するに当たって、プリムローズ、b商事、g商事の社員が立ち会ったことはなかった。
(六) 原告X5について
原告X5は、住所地で税理士を営んでいる者であり、昭和60年ころからサイギン会に所属していた。
原告X5は、昭和62年ころ、税理業務の客から紹介されて、栃木県に所在するゴルフ場である鷹ゴルフの会員権を購入し、平成2年3月当時も、右ゴルフ会員権を所有していた。
原告X5は、B支店長の前任者であるI前支店長から本件ゴルフ場が開設される予定である旨の情報を得ており、場所が自宅に近かったことから、買いたいとの希望を持っていたが、平成元年12月ころ、原告X5の事務所を訪れたB支店長から、本件会員権は、購入希望者が多いから、購入することはできない可能性が高いとの説明を受けた。この際、B支店長は、埼玉銀行のほかに別の銀行も本件会員権の購入とローン契約を組み合せて取り扱っている旨の説明を受けた。
原告X5は、右説明の後、同じ税理士であり、ゴルフ仲間でもある原告X4と、本件ゴルフ場は場所的にも適当であり、老後にゴルフを楽しむためのゴルフ会員権をどうしても取得したい、原告X4と一緒に購入することができるのであれば、本件会員権を一緒に購入しよう等とお互いに話し合っていた。
ところが、その後、平成元年12月中に、埼玉銀行の行員から、本件会員権を補欠で購入することができる旨の説明を受けたため、原告X5は、本件会員権を購入することとした。原告X5は、自宅において、プリムローズに対して、本件会員権を購入する旨の入会申込書を作成した(作成年月日欄は、空欄であり、g商事の取扱い年月日は、平成2年2月28日であり、埼玉銀行指扇支店が、紹介者とされている(乙第8号証)。)が、右申込書の所属クラブ欄に記載されているゴルフ場「群馬プレスCC」の開場日は、平成5年5月18日であり、原告X5が右申込書を作成した当時、右ゴルフ場は、まだ開場されていなかった(乙第9号証)。また、原告は、同年3月8日付けでゴルフローン借入申込書を作成し(乙第21号証の1)、同月13日付けで、埼玉銀行との間で、本件戊契約を締結し(<証拠省略>)、同月15日、プリムローズに対し、2,309万円を入金した(甲第5号証の2)。これらの手続は、すべて原告X5の自宅において、B支店長及び埼玉銀行の行員が立ち会って行われ、その際、プリムローズ、g商事、b商事の社員が立ち会ったことはなかった。
原告X5は、右契約締結の後、原告X4と本件ゴルフ場を数回見に行った。
9 原告ら訴訟代理人弁護士が、平成11年12月9日、サイギン会のメンバーのうち、転居が判明している者及び原告らを除く29名の者に対し、埼玉銀行によって、本件会員権の購入を紹介ないし勧誘されたかどうかについてのアンケートを実施したことろ、29名中16人は、回答が得られず、1名は、勧誘(紹介)を受けたと答え、12名は、勧誘(紹介)はされていないと返答した(甲第38号証)。
三 原告らは、一般的にゴルフ会員権の購入には、ゴルフ場の開設遅延やゴルフ場会社の倒産等の危険が伴うので、本件会員権の購入の勧誘をするに当たっては、原告らが的確な認識形成を行うのを妨げるような断定的な判断の提供をしてはならないという義務を負うにもかかわらず、埼玉銀行は、本件会員権の有利な面や本件会員権が安全、確実であることを過度に強調して本件会員権の購入に伴う危険性について的確な認識を形成することを妨げるような断定的判断を提供したと主張する。
1 前記認定した事実によると、埼玉銀行は、日常の業務として、取引先のつながりや取引の振興を図るということから、取引先に対して有益な情報をサービスとして提供することを行っていたこと、指扇支店においては、昭和63年8月あるいは同年9月ころ、I前支店長が、E次長及び同支店の渉外担当者に対し、本件ゴルフ場に関する「事業計画の概要」と題する書面を示して、本件ゴルフ場の経営母体、会員数のほか本件ゴルフ場は指扇支店に近いこと、東松山支店とプリムローズの経営母体であるb商事とは取引関係にあること、b商事の経営者であるFは、Dの実弟であること等の説明をした上で、渉外担当者はそれぞれの担当する顧客に対して、また、E次長はサイギン会のメンバーに対して、それぞれ本件ゴルフ場に関する情報を流すように指示したこと、また、I前支店長は、平成元年7月、I前支店長が、自己の後任として着任したB支店長に対し、サイギン会のメンバーに対して本件会員権に関する情報提供を行ったので、本件ゴルフ場の会員募集の手続が始まったら、本件会員権の購入を希望している者及び関心を示している者に対して、改めてその旨の情報を提供することを引継ぎ事項の一つとして伝えたこと、B支店長又は渉外担当者らは、本件ゴルフ場の縁故募集が開始されたとして、平成2年2月ころ、原告らに対し、本件ゴルフ場の場所が指扇支店に近いこと、プリムローズの経営主体がDの実弟であること、本件会員権の販売価格が2,300万円であること、本件会員権の購入代金は、埼玉銀行が融資すること、本件ゴルフ場が埼玉県で許可される最後のゴルフ場になる可能性があること、プリムローズに対しては、東松山支店が融資していること等の情報提供をしたこと、埼玉銀行は、右情報提供により、本件会員権の購入を希望した者に対しては、埼玉銀行においてあらかじめ用意した入会申込書に基づいて、縁故募集として正会員の入会申込み手続きをするとともに、埼玉銀行との間でプリムローズカントリー倶楽部ゴルフローン借入申込書及びサイギン・ローン契約書(金銭消費貸借契約証書)を取り交わし、本件甲ないし戊契約を締結したことが認められる。右事実に照らすと、本件会員権に関する情報提供は、顧客に対する一般的な情報提供としながらも、埼玉銀行にとっては、ゴルフ会員権の購入資金名目で高額な融資を行うことができ、b商事としても、埼玉銀行の融資により直接本件会員権を販売することができるのであるから、埼玉銀行からの融資借入れと本件ゴルフ会員権の購入は極めて密接な関連性を有しているといわざるを得ない。したがって、埼玉銀行は、信義則上、本件ゴルフ場及び本件会員権について、殊更に有益な情報あるいは断定的判断に関する情報等の提供をすべきでなく、客観的かつ的確な情報を提供すべき義務を負うというべきである。
2 前記認定のとおり、指扇支店は、昭和63年8月ないし同年9月ころ、原告らに対し、プリムローズが正会員の縁故会員募集を行っていること、本件ゴルフ場は、Dの実弟が代表取締役であるプリムローズが事業主体であり、b商事が経営母体であること、埼玉県では最後の名門ゴルフ場であること、最終正会員が950名、縁故会員が限定200名であり、入会金が300万円、預り保証金が2,000万円、消費税込みの支払金額が2,309万円であること、東松山支店が、プリムローズに対して融資をしていることのほか、本件ゴルフ場の名称、造成期間、ホール数等の本件ゴルフ場の概要を説明し、右購入代金等については、埼玉銀行においてローンを利用することができること等を説明したが、これらの情報の内容が、虚偽であると認めることはできないし、昭和60年ころから、ゴルフ場の開発がブームになり、ゴルフ会員権の相場も高騰を始め、昭和63年ころから平成元年ころにかけては、さらに右相場が上昇し、埼玉県内のゴルフ場の会員権が4,000万円から5,000万円で販売されることがめずらしくない状態で、本件会員権の販売も、平成2年半ばころまでは、順調であったというのであり、また、本件証拠によるも、原告らが本件会員権を購入した平成2年2月ないし3月ころ、ゴルフ場を経営する会社の倒産や、ゴルフ場の開発の著しい遅延という具体的な状況が存し、社会的な問題となったという状況はうかがうことはできないし、本件ゴルフ場の事業主体であるプリムローズは、昭和63年10月ころには、用地買収を完了し、平成元年9月には、f社との間で本件ゴルフ場の造成工事に関する請負契約を締結し、同年10月には埼玉県から開発許可を取得して、造成工事に着手し、その後も順調に造成工事は行われていたというのであるから、ゴルフ場の開発が、コースの造成工事、芝の養生、付属施設の建築等を要する大規模な計画であり、ゴルフ場の開場に至るには多額の資金と長期間に及ぶ工事期間を必要とすることを考慮しても、埼玉銀行が、原告らに対して、本件会員権に関する情報提供をした当時、本件ゴルフ場の開設が著しく遅延したり、不可能となったりすることを一般的に予測することが可能であったとは認め難く、また、原告X1は、有限会社kガス興業を、原告X2は、c商店(米穀商)を営み、原告X3は、株式会社埼玉自動車教習所の代表取締役であり、原告X4及び原告X5は、いずれも税理士であり、原告らは、いずれも、社会的経済的に豊富な経験ないし知識を有している者で、しかも、本件会員権のほかにも複数のゴルフ会員権を取得した経験をそれぞれ有していること、原告らは、E次長、B支店長あるいは指扇支店の行員らからの情報提供に関する説明を受けた後、自己の意志に従って本件会員権を購入することを決めたこと及び右購入する目的、動機等に照らすと、前記のとおり、埼玉銀行の行員が、原告らに対し、本件会員権に関する情報を提供し、その後、会員の募集が開始されたとして、その購入方の確認をしたとしても、埼玉銀行の右情報提供及び本件ゴルフ場に関する説明等が、本件ゴルフ場の開場の確実性や本件会員権の安全性を過度に強調したものであって、原告らが的確な認識を形成することを妨げるようなものであったとは認めることはできない。
3 なお、原告らは、埼玉銀行が、原告らに対し、絶対に安全である、間違いない等との断定的な判断を提供して、本件会員権を販売したと主張し、これに沿う供述部分も存在するが、埼玉銀行は、前記のとおり、日常の業務として、取引先のつながりや取引の振興を図るために、サービスとして取引先に対する有益な情報を提供しており、本件会員権に関する情報提供もその一環として行われたもので、埼玉銀行が、本件会員権を積極的に販売し、販売活動を行うことを企図していたとする事実は存しないところであり、また、提供された情報の内容、情報提供の経緯等に照らして、埼玉銀行が、右のような言辞を用いてまで原告らに対する本件会員権の購入を勧めていたと認めることはできないので、原告らの右供述部分は、たやすく採用することができない。
原告X3、同X2及び同X1は、平成2年2月ころになって突然、電話あるいは事務所を訪れたB支店長から、絶対に心配のないゴルフ場であり、最後の名門コースとなるから絶対買っておいた方が得である、埼玉銀行が全部融資するから心配がない等と言って、購入を断った後も、なおも購入方を執拗に勧められたと供述するが、前記判示のとおり、指扇支店は、顧客に対する一般的な情報提供として、サイギン会のメンバーに対して本件会員権に関する情報提供を行ったこと、B支店長は、前支店長からの引継ぎに基づいて、本件ゴルフ場の会員募集が開始された後、本件会員権の購入を希望あるいは購入に関心を持っている者に対して改めてその旨を伝え、あわせて購入資金についてはゴルフローンによる融資を行うことができることを説明をしたもので、原告X3、同X2及び同X1については、本件会員権の購入を希望あるいは購入に関心を持っているという引継ぎを受けていたというのであり、右原告らが、本件会員権を購入するに至った経緯、目的、動機及びB支店長の説明の内容、回数等にかんがみると、B支店長が、右原告らに対し執拗に本件会員権の購入方を勧めたと認めることはできないし、原告X3、同X2及び同X1らの右供述等は、曖昧で具体性に欠け、たやすく採用することはできない。
4 右のとおり、埼玉銀行の情報提供が、本件会員権の安全性、確実性を過度に強調したものであって、原告らが的確な認識、判断を形成することを妨げるような内容、方法、態様であったとは認められないから、この点に関する原告らの主張は、採用できない。
四 また、原告らは、埼玉銀行は、本件会員権を原告らに販売を勧誘した当時、プリムローズが、b商事に多額の無担保融資をしており、b商事の経営が行き詰まると、直ちに本件ゴルフ場の開設が危うくなることを知り又は予見し得たのであるから、原告らに対して、右危険性を十分に説明する義務が存していたと主張する。
1 前記認定した事実によると、本件ゴルフ場の開設に当たっては、用地買収費に60億円、造成工事費に約100億円、クラブハウス建築費が約40億円、会員権販売経費が約30億円の合計230億円が必要であると見込まれていたが、昭和60年ころから、ゴルフ会員権の相場が高騰し、昭和63年ころから平成元年ころは、埼玉県内のゴルフ場の会員権が4,000万円から5,000万円で取引されている状況であり、原告らが、本件会員権を購入した平成2年2月ころも、ゴルフ会員権の相場は高騰していたものであって、本件ゴルフ場の開設手続も順調に進み、本件会員権のは売上から、右費用を控除しても、約100億円の余裕が見込まれる状況にあったところ、原告らが本件会員権を購入した3ないし4か月後、株価の暴落を契機にバブル経済が崩壊し、これに伴って、ゴルフ会員権の相場が急落したため、本件会員権の販売が不振となったものである上、プリムローズが融資をしていたb商事の海外事業が、平成3年ころから次々と頓挫し始め、平成4年4月には、b商事の資金繰が破綻したため、プリムローズは、b商事に融資していた貸付金(同年3月31日で約84億5,000万円)の回収が不可能となり、その結果、本件ゴルフ場の施行工事を続行させて、本件ゴルフ場を開場させることが困難になったものであるが、右本件会員権の相場の下落、b商事による海外事業の失敗等の事情は、いずれも、原告らが本件会員権を購入した後に生じたものであり、埼玉銀行が、原告らに対して本件会員権に関する情報提供を行い、原告らが本件会員権を購入した当時は、本件会員権の販売や本件ゴルフ場の開設工事は、前示のとおり順調に進んでいる状態にあったから、プリムローズが、平成元年3月31日において、入会金等総額約22億4,537万5,000円のうち、約10億円を、平成2年3月31日において、入会金等総額約103億8,967万5,000円のうち、約19億円をb商事に無担保で融資していたとしても、そのことから、本件ゴルフ場の開設が不能となったり、あるいは、開場が著しく遅延したりという事態を招く具体的な危険性があったと認めることはできないというべきである。
なお、原告らは、原告らが本件会員権を購入した当時、本件会員権の購入の具体的な危険性が存していたことの根拠として、プリムローズが、b商事の債務の担保のために、プリムローズの株式を提供したと主張しているが、これを認めるに足りる証拠はなく、また、プリムローズが、i牧場にプリムローズの株式を担保に入れることにしたのは、平成2年12月27日ころから平成3年10月11日ころまでであって、原告らが本件会員権を購入した後の事柄であり、原告らが本件会員権を購入した当時、すでにプリムローズの株式にb商事の担保が設定されていたことを認めるに足りる証拠もないから、これらを原告らが本件会員権を購入した当時の危険性を根拠付ける事由とみることはできず、原告らの右主張は、採用しない。
2 原告らは、埼玉銀行は、本件会員権の購入に当たっての具体的な危険性を知っていたし、又は、十分知り得る立場にあったと主張する。
この点、前記認定したとおり、埼玉銀行は、プリムローズから昭和60年ころからゴルフ場開発資金の融資の相談を受け、昭和62年9月、系列ノンバンクであるeとともに各10億円の融資を行うとともに、小川信用金庫に協調融資を持ちかけて20億円の融資を実行させたこと、埼玉銀行は、昭和63年末から平成4年4月までの間、行員をプリムローズの総務部長として派遣していたのであるから、プリムローズが、本件ゴルフ場の会員の入会金等による収入を流用して、無担保でb商事の海外事業への投融資を行っていたことについて、十分知ることができる立場にあったと認められるが、前記のとおり、そもそも、原告らが本件会員権を購入した当時は、ゴルフ会員権の相場は高騰し、本件会員権の販売状況は順調であり、入会金等収入合計から、本件ゴルフ場を開設させるために必要な230億円を除いても、さらに100億円の余裕が見込まれたというのであるし、プリムローズは、平成4年3月期の決算報告において、財務状況が悪化したため、b商事からの借入金の総額について虚偽の報告をしたが、それ以前において、格別虚偽の決算報告がされていたとする事実及び埼玉銀行が右虚偽の報告を知っていたとか知り得る状況にあったとする事実はうかがえないところであるから、埼玉銀行が原告らに対する本件会員権に関する情報提供をし、原告らが右情報提供に従って本件会員権を購入した平成2年2月当時、埼玉銀行が、b商事及びプリムローズの財務状況の具体的な危険性を認識し、また、十分に認識し得たと認めることはできず、この点に関する原告らの主張も、認められない。
五 さらに、原告らは、埼玉銀行は、銀行ぐるみで本件会員権の勧誘行為を行ったと主張し、指扇支店には本件会員権を6口販売するよう割り当てられていたと供述するが、指扇支店における本件会員権に関する情報提供に従って本件会員権を購入した者が、6名存在することが判明したことから、そのように判断したというのであり、右供述は推測の域を出るものでないし、本件全証拠に照らしても、埼玉銀行が組織的に各支店ごとに本件会員権の販売を割り当て、本件会員権の購入の勧誘をさせたと認めるに足りる証拠は存在しないから、原告らの右主張は、理由がない。
六 原告らは、埼玉銀行が行った本件会員権の勧誘、販売、購入手続の実施は、銀行法12条に違反すると主張する。
B支店長らは、本件会員権を購入するに必要な資金を有しない者に対しては、その購入資金については、埼玉銀行のローンを設定することができる等と話し、本件会員権の購入に際しては、埼玉銀行があらかじめ用意した入会申込契約書に基づいて、プリムローズゴルフ倶楽部への入会契約を締結する等の便宜を図った経緯が存するが、前記認定のとおり、埼玉銀行は、日常の業務として、取引先のつながりや取引の振興を図るために、サービスとして取引先に対する有益な情報を提供していたことから、本件会員権に関する情報提供もその一環として、ゴルフ愛好者の集まりであるサイギン会のメンバーに対して行ったもので、原告らに対する説明等の内容、態様等に照らしても、情報提供の域を出るものでなく、もっぱら本件会員権の販売を企図するものとして、右情報を提供し、その購入方を勧誘し、勧奨していたとは認めることはできない。したがって、埼玉銀行の右所為が、銀行法12条に抵触する違法な行為であると解することは困難であり、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠も存しないので、原告の右主張は、理由がない。
七 以上のとおり、原告らの本訴主位的請求は、いずれも理由がない。
第二本訴予備的請求について
一 原告X1、同X2及び同X5は、割賦販売法30条の4を類推して、本件入会契約をそれぞれ解除したことをもって、本件甲契約、本件乙契約及び本件戊契約に基づく残債務の支払義務は存しないと主張する。しかし、本来、別個の契約であれば、一方の契約関係から生じた事由を他方の契約関係において主張することはできないのが原則であるところ、同法30条の4は、同法2条4項が定める指定商品に限って、一方の契約関係から生じた事由を他方の契約関係において主張することができる旨を定め、契約の一方の当事者の保護を図るものであるから、右条項に該当しない商品について、同法30条の4を類推適用することはできないと解するのが相当であるところ、本件会員権は、同法2条4項に定める指定商品のいずれにも該当しないから、同法30条の4の類推を認めることはできず、この点に関する原告X1、同X2及び同X5の主張は、失当である。
二 また、原告X1、同X2及び同X5は、本件会員権の購入と、埼玉銀行との間の金銭消費貸借契約(本件甲契約、本件乙契約及び本件戊契約)は、密接不可分な関係にある上、本件会員権の販売手続は、埼玉銀行によって行われているのであるから、埼玉銀行が、原告X1、同X2及び同X5に対して、旧訪問販売法4条、5条所定のクーリングオフの存在及びその行使方法について記載された書面の交付を受けていないことを知っていたことは明らかであり、信義則上、原告X1、同X2及び同X5は、プリムローズに対する前記解除の抗弁をもって、埼玉銀行に対抗できると主張する。
しかし、本件会員権の購入契約は、原告とプリムローズとの間で締結されたものであり、埼玉銀行との間で締結された金銭消費貸借契約(本件甲契約、本件乙契約及び本件戊契約)とは、契約の相手方が異なる別個の契約であるし、埼玉銀行は、前示のとおり、本件会員権に関する情報提供をし、その後、本件会員権の購入を希望した原告らのために、プリムローズとの入会手続き及び本件会員権の購入に関する手続きについて便宜を図ったに過ぎないし、埼玉銀行の本件における前記のような関与の程度、態様等に照らしても、信義則上、直ちに同条項の適用を受ける取引に該当すると解することは困難である。
仮に、右購入契約に際して、旧訪問販売法4条、5条所定のクーリングオフの存在及びその行使方法について記載した書面を交付する必要があるとしても、右書面の交付は、プリムローズあるいはb商事においてすべきところであり、前示のとおり、本件会員権に関する情報提供をし、その後、原告らのために、入会手続き及び本件会員権の購入に関する手続きに関する便宜を図った埼玉銀行が、信義則上も右書面を交付すべき義務を負うものでないことは明らかである。
したがって、この点に関する原告X1、同X2及び同X5の主張も、採用することができない。
三 右のとおりであるから、原告X1、同X2及び同X5の本訴予備的請求は、いずれも理由がない。
第三反訴本件甲事件について
請求原因1は、当事者間に争いがなく、請求原因2は、<証拠省略>により認められる。原告X1は、本訴において、抗弁事実を主張するが、前示のとおり、右抗弁事実は、いずれも認められない。
第四反訴本件乙事件について
請求原因1は、当事者間に争いがなく、請求原因2は、<証拠省略>により認められる。原告X2は、本訴において、抗弁事実を主張するが、前示のとおり、右抗弁事実は、いずれも認められない。
第五反訴本件丙事件について
請求原因1は、当事者間に争いがなく、請求原因2は、<証拠省略>により認められる。原告X5は、本訴において、抗弁事実を主張するが、前示のとおり、右抗弁事実は、いずれも認められない。
第六結論
よって、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないから、これを棄却し、被告の反訴本件甲ないし丙事件は、いずれも理由があるので、これらを認容することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法61条、65条1項を、仮執行の宣言につき、同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 星野雅紀 裁判官白井幸夫、裁判官檜山麻子は、転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 星野雅紀)
<以下省略>